誰かを罰することで得られる快感:脳科学からの視点

メシウマ。「他人の不幸で飯がうまい」という意味のネットスラングに焦点をあてた本が出た。脳科学者の中野信子氏の近著「シャーデンフロイデ~他人を引きずり下ろす快感)には、ネット上で見られるバッシングや特定の対象へ向けて非難、中傷が集中する炎上が何故起こるのか考えるヒントが詰まっている。ここ数年増える一方の「炎上」メカニズムをヒトの脳の仕組みから考えてみたい。

平和で安定した社会を守る仕組み

平和で安定した社会に必要な「利他的懲罰(サンクション)」という行為

中野氏によると、社会が安定していて平和であるためには「利他的懲罰(サンクション)」という行為が必要だそうです。利他的懲罰というのは、集団の中に他とは違う行動をとる人(例えば、フリーライダーや非協力的、反社会的人物)がいた場合には、その人に対して自分を犠牲にしてでも罰を与える行動です。そうした自己犠牲的な罰の実行者がいてくれるおかげで、社会規範やルールが維持されている。集団の約束事を破った裏切り者が、罰を受けることで卑怯な行為が抑制されるというのです。そのため、ネット社会で「ルール違反摘発」を積極的に行う人がいるのは当然という論も出ています。
集団にとって都合の悪い「ナニカ」を発見したら、人であれ団体であれターゲットとしてロックオンする。目立った発言をしたり風変りな行動をとる人というのは、安定した社会を壊す可能性のある要注意人物としてマークされる。そして、なにかしら不適切なことをやったなら指摘し、非難し、通報したり拡散し、最悪の場合…… ネットリンチに至る。

人は罰することで喜びや満足を感じている⁉

イエール大学の研究では、「人は自分が信頼される(信頼に値する)人間であることを証明するために、他人を罰しようとする」傾向が発表されている。自分自身の価値を社会的に証明するため、他者を罰して自分こそが「正義」だとアピールしたくなる欲求は、人間の本能的なものに近いのかもしれない。2004年のチューリッヒ大学の研究では、利己的なふるまいをする人に対しては多くの人が自らコスト(時間・労力・お金など)をかけて罰を与えたがり罰を与える時、脳の線条体という部分が活性するという。
それは、集団にとって害をなすかもしれない個体を罰することで人が強い喜びや満足を感じていることを脳研究が示したということになる。

承認という社会的報酬

日本人の承認欲求の高さ

ツイッターのツイートを分析すると、日本語のつぶやきが異常に多いというデータが出ています。世界的にみれば、Twitterユニークユーザー数は英語話者が多いはずなのに、投稿されたデータは「日本語」が異常に多い。それは、日本人の承認欲求の高さを暗示しているとも解釈できそうです。称賛や同意を周囲から得るということは、社会的文脈に照らせばその人のランクが上がることと同意ともいえます。場合によっては、金銭的な報酬よりも社会的報酬に価値を感じる人もいるでしょう。そういったバックグラウンドを考慮すると、ネット上で自分とは無関係のトピックにまで言及し「みんなのために」といわんばかりに正義・正論をふりかざす人はとても社会性が高いということになるのでしょうか。政治家や著名人などの「うっかり」や「不適切」な言動をいち早く見つけてはtweetして周知しつつ、良識あるコメントを書き込み世間からの報酬を得ることに喜びを感じるのは、脳の仕業なのかもしれません。

「利他的懲罰(サンクション)」には快感がともなう

社会の秩序を守るためになされる、利他的懲罰(サンクション)という行為。あるグループの安定が保たれるためには必要といいますが、実行にはリスクもあります。ルール違反、反社会的行動に対してクレームすると、相手から反撃されることもありえます。つまり、自己犠牲的サンクションには危険がつきものなのです。リアルな交友関係で無作法な知人に対して面と向かってモラルを説くとしたら… その後の展開が気になって躊躇する人は多いでしょう。よかれと思った発言に、逆ギレされる可能性もあります。そこで、そうしたハードルを飛び越えさせるために、人の脳が工夫をしたのが報酬系の回路です。リスクの伴う行為に快感を与えることで、サンクションを誘発しようとしているのです。他人の弱みを見つけて指摘したり、非を責めると気持ちがいい。中野氏いわく「人の脳は誰かを裁きたくなるようにできている」ということなんです。

まとめ

本来ならリスクの伴うサンクション(懲罰・制裁)ですが、匿名であれば相手に正体を知られることなくリベンジされる可能性をゼロに近づけることができます。要するに、ネットを使って匿名で誰かの「不謹慎」や「モラル違反」を見つけ、正しい方向へ導くような書き込みをするのはノーリスクで快感を得られる良策とも考えられます。となると、ネット炎上の根を断つのは…… なかなか難しいことかもしれないですね。

参考:中野信子著「シャーデンフロイデ」https://www.gentosha.jp/article/11182/

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