女子高生の冗談から生まれた「豊川信用金庫事件」

女子高生の冗談から生まれた「豊川信用金庫事件」

世間を大騒動に巻き込み、金融機関が破たんしそうになった事件。
それは、女子高生同士の冗談がきっかけでした。
なにげない会話がモトで起こった「豊川信用金庫事件」を振り返りながら、噂話の怖さについて考えてみようと思います。

なにげない会話がまさかの展開!?

1973年12月。愛知県の高校に通う女子高生が電車のなかで吐いたセリフ。
「信用金庫は危ないよ」、この言葉によって事件のタネがまかれることになります。
そもそも、これは友人どうしで茶化しあう冗談めいた発言でした。
高校卒業後に豊川信用金庫へ就職が決まっていた女子Aに対して、友人Bが「そんなところに就職したら危ないよ。だって銀行強盗とかはいるかもしれないんだから、危ない」といった意味合いで、本気さも深刻さもない軽い冗談のつもりだったようです。

噂が一人歩きし、伝播していく…

このあと、まかれたタネは人から人へ渡され、時間とともに内容も変化していきます。
電車のなかで会話を聞いていた女子高生のひとりが、帰宅後に「信用金庫は危ないのか」と家族へ質問し、その質問をうけた親は「信金=豊川信用金庫」と解釈したうえで、情報に詳しそうな親戚へ電話をいれます。その時こそ、「豊川信用金庫は危ない」、という噂が一人歩きを始めた瞬間だったかもしれません。ごく普通の女子高生の会話が、一般家庭の雑談になって、その後、日本中を巻き込むような騒動にまで発展するなど誰が予測できたでしょう。

集団心理が生んだ異常事態

集団心理
今となっては信じられないことですが、わずか数日のあいだに「豊川信用金庫は危ないらしい」といった憶測が広まり、最終的には「経営が危ない」「つぶれる」という表現に変化してまたたくまに広まっていくことに。
ご近所の人が集まって対策を話し合ったり、預金者が被害にあわないようにと積極的に「信金は危ない」ネタを電話で拡散するといった動きもあったようです。
こうした一連の流れによって、「豊川信用金庫は破綻する。急いでお金を引き出そう」といった集団心理が生まれ、ATMのなかった当時、信金の窓口に群衆が押し寄せる異常事態が発生することに。

いっきに約20億円ほどの現金が預金者のもとへ戻っていくという、金融史上まれにみる取り付け騒ぎが起こる事態になりました。

事態を重く見た豊川信用金庫は経営の健全性を訴えるも、いったん広まった経営破たんの噂は消えず、信金の危機を裏付けるような「理事長が自殺したらしい」「使い込み・横領した職員がいる」といった二次的なデマなどが生まれ、状況は悪化するばかり…… 。

あまりの事態に日本銀行が介入

事件の幕引きは、日本銀行の介入によりなされる。
記者会見を行って豊川信用金庫の盤石さを明言するとともにアピールとして、信金本店の金庫前に現金が窓口からも見えるように積み上げられた。その他にも店頭にビラが貼られたり、預金者への説得を行うなど騒ぎを収めるための方策がとられ、信金はしだいに通常の営業へと移行していった。
新聞各紙が警察発表を報道してもなお、「(本当のところ)豊川信金は潰れたのだろう」「噂話でこれほどの騒ぎになるはずがない。何か隠された意図があるのだろう」といった世間の疑念はなかなか払しょくされず、噂の火種は長期間消えることがなかったようです。

何気ない冗談から集団心理が起こした事件の背景

何気ない冗談
この事件の背景には、国民の心理を不安にさせる社会情勢があったともいわれます。
1973年といえばオイルショックをきっかけとする「騒動」がいくつも発生した年。
国内小売店では「紙がなくなる」というデマにもとづくトイレットペーパー買い占め騒動が10月(豊川信金事件の2ヶ月前にあたる)に起こっていました。
生活必需品である紙不足デマのあとは、洗剤がなくなるという「洗剤パニック」、さらには砂糖にまで買占め騒動は飛び火していくという社会現象がみられたのです。それまで当たり前だったことが、ある日突然そうじゃなくなるという体験を通して人々の心になにか芽生えたものがあったとしてもおかしくないですね。

ちょっとした噂が、なぜ事件にまでなってしまうのか?

人の噂話が大きな騒動を起こすタネになってしまう事例として、豊川信用金庫事件をご紹介しました。
この事件から学べることの一つは、人というのはけっこう騙されやすいという事かもしれないですね。
心理学用語でいう、“確証バイアス”が噂を「真実」に変えていったと考えることもできそうです。 
確証バイアスとは・・・ 認知心理学や社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。認知バイアスの一種。
また、その結果として稀な事象の起こる確率を過大評価しがちであることも知られている。 ・・・ とあります(wikipedia参照)。

事件のあった近隣地域では、過去に金融機関が倒産したことで被害者が出たという「事実」「記憶」が住民のあいだで共有されていたので、銀行が破綻するという「噂」を支持するような材料が集められやすかったと推測できます。巷ではオイルショックの影響が生活に及んでいて、一般消費財(トイレットペーパーや洗剤、砂糖など)が店頭からなくなるという買占め現象も起こっていました。人々のあいだで、それまで安全・あたりまえと思っていたことが揺らぎ出したタイミングに、「銀行は危ない」という噂が発生したとしたら? 取るに足りない「噂」として消えることなく、価値ある情報として伝言されていったのは、むしろ自然な現象だったのかもしれません。 

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